はじめに
この記事では、通信周期とモーター制御の関係を初学者向けに解説します。
WMXとEtherCATを学び始めたころ、「EtherCATの通信周期を短くすると、IOの制御が速くなるのはわかる。でもなぜモーターの動き(軌跡)が安定するの?」という疑問がありました。
「パソコンからの絶対位置移動は、サーボに指令を出したら終わりで、サーボアンプが勝手に目的位置まで動くんじゃないの?」と思っていましたが、それは Profile Position(PP)モード と呼ばれる制御方式の話でした。
WMX3のPCベースのソフトモーションコントローラが本領を発揮するのは、Cyclic Synchronous Position(CSP)モード を使うときです。※WMXを導入したらデフォルトでCSPになります。
EtherCATの通信周期(サイクルタイム)とは?
EtherCATでは、マスター(WMX3)とスレーブ(サーボアンプやIOモジュール)が一定の間隔でデータをやり取りしています。この間隔のことを 通信周期(サイクルタイム) と呼びます。
たとえば通信周期が 1ms であれば、1秒間に1,000回データのやり取りが行われます。250μs なら、なんと1秒間に4,000回です。イメージとしてはこんな感じ↓。
| サイクルタイム | 1秒間の通信回数 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 4ms | 250回 | IO制御など低速用途 |
| 2ms | 500回 | 一般的なモーション用途 |
| 1ms | 1,000回 | 標準的なサーボ制御 |
| 500μs | 2,000回 | 高速・高精度な位置決め |
| 250μs | 4,000回 | ハイエンド装置・高応答制御 |
通信周期が短いほど「細かく・頻繁に」指令を送れるため、モーターの動きがより滑らかになり、位置精度や応答性が向上します。これが「通信を速くするとモーターが安定する」理由です。
WMXのデフォルトは1msです。基本的にこれより遅くする必要はありません。
サイクルタイムと指令分解能の関係
CSPモードでは、WMX3が毎周期ごとに「次の瞬間の目標位置」をサーボに送り続けます。たとえば100msかけて10,000(μm or パルス)動かす場合:
- サイクルタイム 1ms → 100回に分けて送る → 1回あたり100 (μm or パルス)
- サイクルタイム 250μs → 400回に分けて送る → 1回あたり25 (μm or パルス)
周期が短いほど1回あたりの指令量が細かくなり、軌道が滑らかになります。これが高速通信が「モーターの動きを安定させる」本質的な理由となります。
WMX(マスター)とサーボアンプ(スレーブ)の主従関係
CSPモードでは、サーボアンプは自ら軌道を計算しません。PC側のWMX3が、位置・速度・加速度・ジャーク(加加速度)から滑らかな軌道を計算し、毎周期(例:1msや250μsごと)に「次の瞬間の目標位置」をアンプに送り続けます。
アンプは「考える(計算する)」ことを放棄し、電流制御とフィードバック制御に100%専念します。これが現代のハイエンド装置における設計思想です。
CSP・CSV・CSTの違い
WMX3で使える同期モードは3種類あります。違いは「PC(マスター)とアンプ(スレーブ)の間で、どの制御ループの権限を渡すか」という設計思想です。
サーボモーターの制御は内側から 「電流(トルク)ループ」→「速度ループ」→「位置ループ」 という3層のカスケード構造になっています。
| モード | PCが送る指令 | アンプが担当するループ | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| CSP(位置同期) | 目標位置 | 電流・速度・位置の全ループ | 位置決め・搬送・一般モーション |
| CSV(速度同期) | 目標速度 | 電流・速度ループ | 速度制御が必要な機構 |
| CST(トルク同期) | 目標トルク | 電流ループのみ | 押し付け・張力制御・ボンダー |
CSP(位置同期モード):最もよく使うモードです。WMX3が毎周期、目標位置を送り続けます。高い位置精度と滑らかな動きが得られます。
CSV(速度同期モード):WMX3が速度指令を毎周期送ります。位置ループはPC側が担当するため、柔軟な速度制御が可能です。速度応答性が重視される用途に向いています。
CST(トルク同期モード):WMX3がトルク(電流)指令を毎周期送ります。アンプは位置・速度を無視し、トルクのみを制御します。部材の押し付け力の制御に最適です。
62.5μsという超高速通信
WMX3はさらに短い 62.5μs という超高速サイクルタイムにも対応しています。三菱電機製サーボやパナソニックのMINAS A7でも動作実績があり、ハイエンドな半導体・電子部品製造装置での活用が広がっています。 ニュース記事はこちら産業用PCのソフトモーションが倍速に、62.5μs周期で多軸同期制御を実現:組み込み開発ニュース – MONOist
※今のところ制御できるのは2軸のみです。また、パソコンの性能も高スペックのものが必要。
複合制御(位置×トルク・速度×トルク)
WMX3とEtherCATの組み合わせでは、モード単体だけでなく複合制御も可能です。たとえば:
- 位置制御+トルクリミット:目標位置まで動かしながら、過負荷になったら力を制限する
- トルク制御+速度リミット:一定の力で押し付けながら、速度を安全な範囲に制限する
このような複合制御ができるのは、WMX3がEtherCATを通じて毎周期リアルタイムで指令を送り続けているからこそです。ハードウェアシーケンサ(PLC)では難しい柔軟な制御が、ソフトモーションでは実現できます。 普段から制御を行っている立場として、この機能があることは非常にありがたいです。まさに「かゆいところに手が届く」存在だと感じています。
通信周期を短くするための設定方法
実際にサイクルタイムを変更するパラメータ設定については、別記事で詳しく解説しています。
まとめ
- EtherCATのサイクルタイム(通信周期)が短いほど、モーターへの指令が細かくなり動きが安定する
- CSPモードはWMX3が毎周期「目標位置」を送り続ける方式で、最も一般的に使われる
- CSP・CSV・CSTの違いは「PCとアンプのどこで制御ループを分担するか」という設計の違い
- 位置×トルクなどの複合制御はWMX3+EtherCATの強力な武器になる
では、良きWMXライフを!
